Hideのおすすめ本とエッセイと絵と詩等のブログ

おすすめ本やエッセイ、絵、自作詩などを載せていきたいと思っています。

ねずみの死

ねずみがうずくまって死んでいる
いかにもやさしく目を閉じて
コンクリートの冷たさも
もう気にならない
物音に身を縮めることもない
尻尾は全く垂れた


生きている間必死に餌を求めて飛びまわっていた
姿に比べれば
これはなんと荘厳な姿だろう


死の一瞬を覚悟したもののように
手足は平静に開かれている


死んだねずみの傍らを絶え間なく流れていく時間
そうして
生きている私


ねずみと私とのちょうど真ん中に
私は握りこぶしほどの石を一つ置いた


死がその沈黙の声を親しく語りかけてくるように


猫が来た
しばらくにおいを嗅いで
そのまま咥えて行った
死がまた一つ
わたしの記憶の底に沈んだ


ソーニャ

あの方のことをお訊ねですか
何をお話ししたらよいのでしょうか
わたしには何もわかりませんが

何もわからないと言ってしまってはいけないんでしょうね
きっと


わたしはあの方のことをいつも思っております
どうかあの方と呼ばせてください
それはあの方は人を殺しました
だから
あの方と呼んではいけないんでしょうけど
でも
あの方の後ろにはいつも神様がおいでに
なっておられます
わたしにはそれが感じられるのです
あの方は決して後ろを振り向こうとは致しませんが
ごめんなさい
訳の分からないことを言ってしまって


でも今
わたしは幸せです
あの方の傍に居られるだけでいいんです
それはときに
辛いことを言われます
ひどく人を嘲った言い方を
されるときもあります
先夜も
「人殺しと売春婦のペアか
なかなかいい取り合わせじゃないか
まったく俺達にはお似合いだよ」
と吐き捨てるように言われました
そんなときわたしはいつも心の中で
神様にお祈り致します
神様
あの方は今ひどく苦しんでおられます
わたしもあの方も救う価値のない
汚れた人間かも知れません
けれども
どうか
私たちをお見捨てにならないでください
ああ神様
どうかわたしに勇気をお与えください
あの方の言葉に
わたしが揺るがされることのないように


ああ
とんだお喋りをしてしまいました
なにかお気に触ることがありましたら
ごめんなさい
そろそろ囚人の皆さんにクワスを
持って行ってあげなければなりませんが
皆さんとても楽しみにしてくれていますの
宜しかったらどうぞこちらでもいかがですか
そうですか
よろしいですか


そう言えば
今年はヤルタの方では
上質のブドウがたくさん収穫されたそうです
よろしかったらそちらの方にも


では


         「罪と罰」からの創作


現代の言霊

電話でケンカをした
女は泣いた
もう二度とあなたには電話はかけないと言った


わたしは黙ることしかできなかった
そうして
沈黙はまるで暴力のように二人を裂いた


電話は言葉を丸裸にする


それは
現代の言霊


無言さえ反響する


現代神

1㎏原器は
神のように
何重もの頑丈な扉の向こう側に恭しく安置されている


そう
計量できぬ一切のものを厳格に世界から排除する
これは
現代の神である


呻き声が
聞こえはしないか


居場所を奪われた
無数の病んだこころたちの


四季2

虫が
腹に滲みて鳴く夜
薬を三粒飲んだ


夜風がそろそろと入り込む
久しぶりの夜の秋


友の電話はきれいな声をしていた


もうすぐ牡蠣が食えるだろう
気の早い山国の楓は
もう紅葉しているかもしれない


四季は
年を取らない幼馴染みのような顔をしている


腹の虫が鳴り止み
頭が少し冴えたとき


思想を潰したら
酸っぱい中身が出てきた