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エッセイ ドストエフスキーの常識感覚

トルストイと比べてドストエフスキーは常識外れと思われがちだが、作品の中で社会常識を踏み外さないのは、むしろドストエフスキーの方である。


晩年のトルストイの無政府主義的革命家とも思える言動は、社会の在り方を根底から引っ繰り返そうとする道徳的野人のそれである。しかも、これは晩年に限ったことではないのである。


ドストエフスキーも革命家的な血は多量に持っているが、それは芸術作品の中で実践されている。登場人物たちが、バルザックのような確たる大地を持たずに、一度足を滑らせたら、奈落の底に堕ちてしまうような危険な境をさまようように見えるのは、前に述べた時間感覚の革命によるところと微視的心理の拡大鏡的展開による。


けれども、社会常識はその分しっかり確保されているのであって、例えば、「罪と罰」のマルメラードフのようなしようのない酔漢が、どんな死に様をしなければならなかったか。また、その妻のカチェリーナがマルメラードフには過ぎた女房だったと書くとき、非常に健康な社会常識が保たれているのである。例はこればかりではなく、ドストエフスキーの作品の随所に見られるものである。