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「蜜柑<ミカン>」芥川龍之介 新潮文庫

芥川は、小説の中で自分の姿を見え隠れさせます。それが、初期の頃はピリッとしたエスプリと自嘲の効いたよい味の作品になるのですが、後期になると、やり切れないほどの苦い後味を感じさせるものになっていきます。この「蜜柑」では、世間の塵埃<じんあい:ちりとほこり>にまみれた自分というテーマは相変わらずの芥川ですが、はじめのうちはがさつでいやな奴と思っていた少女が、汽車を待っていた弟たちのために何個もの蜜柑を放り投げ、それが日の光に鮮やかに輝いたという場面は、読む者に新鮮な詩情を感じさせる味のあるものになっています。神経質な芥川がわれを忘れた瞬間です。